2025.05.07 【探訪】紆余曲折の60年を経て新体制 ライフテクトヤマグチ(東京都町田市)

創業60周年のライフテクトヤマグチ

60周年感謝祭では社員から山口夫妻に花束が贈られた60周年感謝祭では社員から山口夫妻に花束が贈られた

店内はお客が座って話せるように椅子を用意店内はお客が座って話せるように椅子を用意

ハイアールの講演会の記念写真(前列右から6番目)ハイアールの講演会の記念写真(前列右から6番目)

全国トップクラスの地域専門店

 今年で創業60周年を迎えるパナソニック系のライフテクトヤマグチ(東京都町田市)は、値引きをしない姿勢により粗利率が業界最高水準の45%と、全国のパナソニック専門店の中でトップの成績を誇っている。この60周年の節目に山口勉社長は経営の座を退くことを決め、ライフテクトイトウ(東京都八王子市)の伊藤直樹新社長にバトンを渡した。山口氏は一代でヤマグチを全国トップクラスの地域専門店に育て上げた。しかし、ここまで紆余(うよ)曲折あった。新体制に移行したヤマグチを今後は相談役として支えていくという山口氏が歩んだ60年を追った。

お客の全ての困り事に対応

 1942年生まれの山口氏は、61年に松下通信工業(現パナソニック)に入社。3年間勤務した後、八王子にあった電器店で64年から1年間修業し、65年6月に「でんかのヤマグチ」を設立した。

夫婦二人三脚で

 山口氏は「大きい企業と違い、小さい企業は従業員全員が意識を持って働くため、夢がある」と話す。「創業後は夫婦二人三脚で店を切り盛りしてきた」と当時を振り返る。

 ただ、この60年の商売は順風満帆というわけにはいかなかった。最も大変だった時期は、大型量販店が乱立した1996年。店舗周辺に6店も量販店が出店したという。対抗策として行ったのはチラシ配布と安売りだった。

借金が2億円弱

 無理をした販促活動は長続きせず、経営にも大きな負担となり、94年には借金が2億円弱まで膨れ上がった。電器店経営において借金の返済は大きな負荷になる。そこで取った行動は「粗利率を上げることだった」(山口氏)。97年には安売りをやめた。

 借金があった時の粗利率は25%。そこから借金返済のために徐々に粗利を上げていき、当時は35%まで粗利率を上げた。ただ、商品の販売だけで粗利を上げていくことは簡単ではない。「地域店だからできることをしていた」と山口氏。

 家電の販売やサポートだけでなく、留守番や草むしりなど、お客の困り事に全て対応するようにした。お客の問い合わせにはすぐに対応することを心掛け、できることはすぐに実行に移した。実際、山口氏はお客に喜んでもらえるような良いアイデアを思いついたらすぐメモを取れるよう、手帳を持ち歩いているそうだ。

 こうした地道な活動を継続し08年に借金の返済を終えた。現在は粗利率45%を目標に取り組んでいる。

日中韓で定期的に講演会も

グループを設立

 山口氏が組織ショップ「ライフテクトグループ」を設立したのは17年のことだ。当時、店があった八王子地区の電器店6店に声をかけ、電器店の在り方や組織ショップの強みなどの説明会を行い、加盟店を募った。

 山口氏は「自店のみだと仕入れの数が減り、リベートが少なくなった。そのため仕入れを増やしたかったのと情報共有の場としても組織ショップを立ち上げたかった」と説明する。組織ショップ立ち上げ時の加盟店は4店だった。

 ヤマグチの経営を引き継いだ伊藤新社長は設立当初から加盟しており、「草むしりなどのサービスはヤマグチのような大きい店だからできると考えていたが、山口社長の『店の大小は関係なく、地域電器店だからできる』に感銘を受けて加入を決めた」と思い返す。現在、ライフテクト加盟店は13店になった。各店がそれぞれ成長しており、この先も安定的に仕入れを行うため、さらにグループ員増加を目指す。

 赤字経営だった店を黒字にしたことがきっかけで、山口氏はテレビや雑誌などのメディアから取材を受ける機会が増加。「でんかのヤマグチさんが『安売り』をやめたワケ」や「『脱・値引き』営業」など計4冊の書籍も出版した。一部の著書は翻訳されて国内だけでなく中国でも読まれている。実際に購読した中国人が来店し、商品を購入することもあるという。

 本を出してからは日本と中国、韓国で定期的に講演会も行っており、これまでの公演回数は180回以上となった。「主に話しているのは、粗利を取るために安売りをしないことと経営の在り方についてで、商売の基礎を教えている」(山口氏)。講演会の平均参加人数は50人を超え、240人が聴講したこともあった。電器店よりも異業種の参加が多い。

 10年2月には中国電機大手ハイアールの社員研修で講演した。相談役に退いた後も講演会などは開いていく考えだ。

毎週末のイベントも欠かさず取り組む

 ヤマグチの地道な活動は顧客数も大きく増やした。会員数は約8000人に上り、現在も4250人が定期的に来店し家電を購入する。毎週末のイベントは盛況で、多くのお客が来店している。

 同店では45年前から毎週末にイベントを実施しており、来場客には記念品としてサンマやカツオ、ジャガイモといった食材を渡す。

 昔の記念品は茶わんなど手元に残るものが主流だったが、「今のお客さまは自分の趣味に合うものを求めることが多いため、手元に残らない品や楽しめるイベントを開催するようにしている」と山口氏は話す。

 特に野菜販売や健康測定体験会、筆ペン教室などが好評で、毎回多くの人が参加する。

 イベントではお客に購入した家電の状態や困り事を聞くことで、家電の買い替えや新たな商品販売につなげている。

山口氏、節目迎え経営から退く

 創業60周年の節目を迎える今年、山口氏は経営の一線から退く決断をした。「自身の年齢を鑑みて決めた」と理由を語る。今後は24年から副社長を務めていた伊藤氏に引き継いでいく。

 「伊藤社長を選んだ理由はグループの中で最も考え方や販売方法が自分と似ていた」(山口氏)ためだ。21年ごろから声をかけ、継いでくれるか意思を確認していた。

 今後ヤマグチを率いていく伊藤氏は「たくさんのお客さまに支えられている。60年間取り組んできた山口社長の思いも引き継いでいきたい。新しい時代の流れもあるため、山口社長の思いをもとに変えていきたい」と力を込める。

今後は相談役に

 山口氏は今後、相談役として伊藤社長を支える。立場は変わるが、引き続きヤマグチの発展のため二人三脚で歩む。

 山口氏の新たな挑戦は始まったばかりだ。